top of page

61 一息ついて

 しばらく、怒涛のような生活を送っていた。
 具体的に言うと、転勤、転居、新天地業務、突発事故、組織変更、上司異動、業務監査、等々である。これらが一四半期に凝縮して投げ込まれた。ちなみに僕は基本的には一セクションで部下を束ねて指揮する立場にあり、先述の仕事すべてについて、ある種の責任を負っている。
 まったく、悲鳴を上げそうなほど厳しい3か月だったが、結果から言えば、何とかなった。
 もっとも、どれだけ大変であっても、何とかする意気込みがあれば何とかなるということはよく知っていたから、その経験を踏まえ、何とかして乗り切ったのである。根性論と馬鹿にしたければしろ。現実の仕事とはそんなものだ。ちなみに副業であるところの文筆業も複数同時進行している案件があり、こちらもいまだ現在進行形ではあるが、何とかする予定である。
 実は、この怒涛の時期を乗り切ったらやろうと思っていたことが色々とあった。
 せっかく新しい土地に居着いたのだから、あちこち回ろうとか、あれこれ食い歩こうとか、あるいは、お恥ずかしながらまだ引越しの後処理が終わらず、若干荒れている室内を片付ける、とか。
 夢は膨らんでいた。
 だが、どうもそうはいかないらしい。
 乗り切ったと思ったら、新しい山が目前に見えてきたからだ。
 ははあ、なるほど。僕にこれを超えろというのだな。自慢ではないが僕は、目の前に壁が聳えるとそれを上りたくなるタイプである。ましてやこれ見よがしに遮られたら、何としても征服したくなるというのが気概というものである。
 そんなわけで、今、再び粛々とした態度で、しかし沸々と湧き立つ心で、次の山に向けて準備を開始しようとしている。
 山と山の間にある、ほんの僅かな、しかししばらくは憩える谷で、ほっと一息つきながら。

bottom of page