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60 プログレについて

 

 キース・エマーソンが亡くなった。
 という一報に触れて、人々が抱く反応は、5%が「えーっ! マジ?」、95%が「誰それ?」だろう。
 僕はもちろん、前者の5%のうちのひとりである。
 70年代、世界のロック・シーンには新たな潮流があった。69年にイギリスでリリースされたアルバム「クリムゾン・キングの宮殿」に端を発する、これまでになかったロック、すなわち、これまで同様、最小のバンド編成でありつつも、楽曲は技巧的、独創的、かつ壮大でコンセプトに彩られた構成を持ったロック――プログレッシブ・ロック、通称「プログレ」である。
 学生時代、僕は狂ったようにプログレを演奏していた。
 理由は、楽しかったからだ。僕はドラマー、リズム屋であったわけだけれども、技巧的なプログレの楽曲は演奏していてとても楽しいのである。もちろん複雑な拍子が頻出するので難しいのだけれども、その困難を乗り越えて、リズムをバチッと決められると、それはもう爽快で堪らないのだ。
 あれから時が経ち、スティックを握る機会もあまりなくなってしまった。一緒に演奏していた仲間もばらばらだ(もちろん、仲違いしているというのではなく、皆転勤で、居が遠くなってしまったという意味である)。でも、皆、若手時代の繁忙期ももう過ぎて、いい大人になったのだし、もう一度集まって、あの頃のようにプログレを演奏できたら、どんなに楽しいだろうな、なんてことを思ったりする。
 ところで、プログレの有名どころといえば、だいたい次の3つのバンド、「キング・クリムゾン」「イエス」「ピンク・フロイド」である。特にキング・クリムゾンの前出のアルバム「クリムゾン・キングの宮殿」のジャケットは、おそらく知らないが人がいないほど、インパクトがあるものだ。
 次いで知られているのが「ジェネシス」や「EL&P(エマーソン・レイク・アンド・パーマー)」で、亡くなったキース・エマーソンは、このEL&Pのキーボーディストであ。だから、5%が「えーっ! マジ?」というのは当然であって、日本の芸能人で喩えるなら郷ひろみが亡くなったのと同じくらいの衝撃を持っているわけだ。

 キース・エマーソンの、あの衝動的というか、刹那的な印象のキーボード、クラシックとジャズを融合させつつも、根底でロックしていたあの演奏は、確かに唯一無二のものであって、忘れられない。

 心から、ご冥福をお祈りする。

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