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6 兼業について

 

 僕には本業がある。大したことはしていない。大したことはしていないが、ストレスはたくさんある。そんな仕事をしている。
 本業は僕の時間のうち、一日八時間、実際上は半日、起床時間に対してはその七割程度を奪っている。だから、その傍らで三文文士であるにせよ文筆業という兼業を持っていることについては、しばしば「よく兼業なんかできますね」という質問を受ける。
「いやあ、なんとか頑張れてますけど、もうだめですね、へへ」などと愛想笑いとともに適当に答えてはいるものの、後から冷静に考えれば、たぶん、兼業なんかまったくできていないのだと思う。
 つまり、いい加減にしかやれていない。
 本業はしっかりやっている。それが大本だからだ。だが文筆業については、嫌になったらやめちまえばいい、そんなことばかり考えてパソコンに向かっているくらいのいい加減さしか持ち合わせていないのが正直なところだ。逆に言えば、だからなんとかなんちゃって兼業でやっていけているのかもしれない。
 もちろん、いい加減はいい加減なりに、目の前にある仕事はきちんとこなそうとは思っている。
 本業で骨まで削られて死にそうになっている日も、酷評を目にして血反吐を吐きそうな日も、とりあえず一日五千字は書く。とりあえず一歩進むのだ。とりあえずそれを繰り返せば、とりあえず一か月後には脱稿する。とりあえずそのサイクルを守っておけば、改稿やゲラに時間がかかったとしても、年間四冊分くらいは書ける。とりあえず。
 それが死ぬまで続けば、そこそこの生産はできるだろう。大半はゴミと評され実際にゴミとなるが、残った一部分だけでも誰かの印象に残れば、小説界の雑草として引っこ抜かれるまでは生えておく意義は、きっとあるに違いない。
 もっとも、ただでさえ本業で考えることも多いのに、兼業でも考えすぎると病むしかない。なので、意義がどうのこうのといった大きな話で自分を丸め込みつつ、とりあえずはいい加減に、今日もこの後、ノルマの五千字をなんとか書くつもりでいる。

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