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5 ドラムについて

 

 ピアノ、ギター、ベース、津軽三味線等、楽器演奏全般が趣味だが、中でもドラムについては、我ながらそこそこ上手いと自負している。

 ドラムを叩いていると伝えると、次に必ず聞かれる質問が三つある。「どうして手足がばらばらに動くの?」「疲れない?」「ステージの前に出たくならない?」だ。
 それぞれに答えるなら、「誰でも普通にできることだよ」「疲れるよ」「出たいよ」となる。
 ひとつめの問いは、技術的な問題だ。ピアニストが信じられない運指をするのを見てスゲーと思うのと同じなのだが、これは反復練習で会得できる。だいたいの人が練習して自転車に乗れるようになるのと一緒だ。だからドラムも練習すれば普通に手足をばらばらに動かしながら叩けるようになる。大してすごくもないのだが、あえてすごい点を挙げるとすれば、それが長い時間ドラムと向き合って練習ができた証だということ。それだけは褒められていいのかもしれない。
 ふたつめの問いは、当たり前の話だ。ドラムは運動なので叩き続ければ疲れる。だが長距離走をトレーニングしているうちにより長い距離が走れるようになるのと同じで、ドラムもトレーニングにより長時間叩き続けられるようになる。
 みっつめの問いは、ドラマーにとっての根源的な問いかもしれない。前に出たい。しかし前にはでれない。ドラムはでかくて動かないのだ。だからこれは宿命だ。ステージの先端でのけぞって観客にアピールしているギタリストの背中にじっとりとした視線を送りながら、粛々とリズムを刻む。そういう星のもとに生まれた楽器なのだから、仕方がないのだ。

 ところで、僕にはフェイバリットドラマーが三人いる。ドラマーならたぶん知っており、非ドラマーなら間違いなく知らないに違いない。
 その三人とは、ヴィニー・カリウタ、イアン・ペイス、バディ・リッチだ。
 超絶技巧プレイヤーであるヴィニー・カリウタ、ロックの基礎をつくったというイアン・ペイス、そして神バディ・リッチ。
 ドラマーなら「あーね」と納得してもらえる人選だと思う。もちろんカリウタじゃなくてウェックルでしょう、とか、ロックから考えるならボンゾ一択だろうが、とか、ガッドはどこいった、とか、ポンタさんがいねーぞ、とか、異論は認めます。
 彼らに憧れて、僕の青春時代の大半はスティックをさばきペダルを踏むことに費やされた。夏休み、自宅にこもって、練習した。練習用のドラムは買えなかったから、それらしき場所に雑誌を置いてそれを叩いた。うるさいと親に怒られても、指から血が出るまで練習した。バンドとしてステージに立つも大失敗して落ち込み、また練習に励む、その繰り返しだった。
 とはいえ、最終的にそれが飯の種になることはなく、結局は「ちょっとした一芸」または「単なる趣味の延長線上」という結果しか生まなかったわけだが、僕はそれで満足している。
 なぜならたまにバンドを組もうという話が出て、なんとなく集う際に、必ず不足するのがドラマーだからだ。だから僕は大抵そういう集まりで重宝される。アマチュアドラマーとしては、それで十分なのだと思っている。

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