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44 宗教について

 

 宗教と政治と野球の話は人間関係を壊すのでしない、と以前書いた。その舌の根も乾かないうちに前言を翻すようで恐縮なのだが、特に宗教について、少しだけ書かせていただく。
 拙著「アールダーの方舟」で、僕は宗教、特に三大宗教と呼ばれるものをテーマにして長々と小説を書いた。
 宗教に言及することは、人間関係を壊す以上にデリケートな部分がある。その宗教を現に信じている人々が山ほどいるからだ。だから、三文文士とはいえこれをテーマにして小説を書くというのは、若干怖気づくところもあった。
 だが、結局は書いた。典型的日本人である僕が、典型的日本人の宗教観を持って、宗教を描くということにも、若干の意味はあろうと思われたからだ。
 こうして、専門外の人間があれやこれやと調べ上げ、一年がかりで書き上げたのが「アールダーの方舟」だった。

 だが、世に出してみればこの本は、意外なほど反応が薄かった。
 その主たる理由は、刊行部数が極めて少なかったからだ。そもそも批判されるほど人の目にも触れなかったのである。まあ、世の中そんなものだ。
 だが、まったく無視されたかというとそうではなく、ご丁寧な感想をお書きくださる方もいらっしゃった。ちょうどISILが世間を騒がせている時分であり、一神教特にイスラムに対する興味があったのだろう。色々と考える機会になった、興味深かった、とおっしゃっていただいた。このようなお言葉こそ、小説家冥利に尽きるものだと感謝しています。
 一方、僕の宗教に対する無理解を批判される方も少なからずあった。デリケートなものを扱っているのだから、ご批判は当然であり、このことそのものはただ従容とお聞きするのみだ。だがそんなものの中にひとつ、なぜか英語で書かれているものがあった。外人さんかと思ったが、その方は完全に日本人であるようなので、なんで気取ってるのかなと思いつつ、ともかくその読書感想文を読ませていただいたところ、そこにひとつ明確に正しい指摘があった。
 その指摘とは、これは、僕も本当にそうだと納得したのだが、つまりキリスト、イスラム、ユダヤ教を知るには他に読むべき本がたくさんある、というものであった。
 まったくそのとおり。本当に、もしどなたかが宗教関係にご興味を持たれたならば、すぐにでも、数多刊行されている他の本を読まれるべきだと思う。
 僕はあくまでも三文文士だ。宗教にしろ、別シリーズのテーマである数学であるにせよ、門外漢である。そのような人間が書くものを、たとえそれらしく調えられているとはいえ、盲信してはならないのだ。仮に僕の本が面白いなと思われたならば、あくまでもそこは単なる取っ掛かりとして、もっと別のもっとよい本を読み進めていただきたいのだ。
 自分が無責任なことを言っているのはわかっている。だが、だから僕はこういった小説を「娯楽小説」というカテゴリでくるんで世に出しているのだ。
 繰り返すが、僕の書いたもの、すなわち宗教の解釈等々は、正しいことも間違っていることも多分に含んでいる。
 だからこそ、宗教をめぐる今の状況が少しでも面白いなと感じられたならば、他のより正しく現状を説明している書籍に当たっていただきたいのである。その意味で、英語でホカノヲヨメと指摘された方は、まったく正しいのだ。
 ただその方は、そこまで言われるのであれば、その方が読むべきと思われる参考文献を、少しでも、また英語ででも構わないのできちんと例示していただきたかった。それがないので、残念ながら僕はその全体を単なる感情的批判として読むしかなかった。それが、読書感想文だなどとあえて揶揄させていただいた所以でもある。  

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