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4 建築について

 

 かつて某大学の建築学科で勉強をしていたが、残念ながらその大半はもう忘れてしまった。
 でも建築そのものはいまだに興味があり、図面を引くのも好きだ。基本的に小説に添える図面関係は、すべて自分で引いている。結局自分で描くのが一番早いし、デザインのための経費が浮けば定価も安くできて一石二鳥。
 できれば、人様の小説の図面も引かせてもらいたいとさえ思っている。特に、手書きの見取り図が出てくるたびに思う。手書きの見取り図には味もあるが、状況が正確に伝わらない場合もあり、もどかしいのだ。僕にはこの世界で仲良くしている同業者がおらず、そんな相手もいないのだが、もし頼まれれば、報酬関係なく二つ返事で引き受けるつもりでいる。

 そもそも建築学科を志望したのは、極めて不純な動機による。
 当時、もちろん今もそうだとは思うが、理系に進む女の子は少なかった。全体では一割程度、理系の中でも部門によっては一学年二百人くらいのうち女の子が二人、というところもあった。
 理系科目は得意だが、文系科目はどれも落第寸前というダメ高校生だった僕に、理系以外に進む道はないのは明らか。しかし女の子は少しでも多いほうがいい。ではどういう進路を選ぶか。そういう苦悶の中で選んだのが建築だった。建築は他の部門と比べて女の子が多い。といっても二割程度だが、それでも僕をその方面に駆り立てるには十分な動機だった。デッサンが得意というのも、その動機を後押しした。
 というわけで、いろいろありつつもめでたく建築学科に入ったわけだが、結論としては、建築は自分にあう部分とあわない部分とを持ち合わせていた。生活に密着した言わば「道具」としての建築には興味があったが、作品としての言わば「芸術」としての建築には、あまり興味が持てなかったからだ。
 そんなこんなで結局、大学を出た後、僕は建築とはあまり関係のない仕事を選択することになり、そのまま今へと至っている。
 もっとも、その頃学んだこと、知った人には、今もずいぶんとお世話になっている。結果として建築を利用した小説も上梓できたのだから、ある意味では建築は僕の恩人と言ってもいいものかもしれない。 

 

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