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29 水泳について

 

 時々、市民プールで泳いでいる。
 小さい頃はよく泳いでいた。というか、泳がされていた。一週間に四回スクールに行かされた。そこそこ泳げてしまったがために、どんどんクラスを上げられ、最終的には一時間で三キロ近く泳がされるスパルタなクラスに入れられた。元がなまけ性な僕は、毎日が嫌でたまらず、徐々にスクールをサボるようになり、最終的にはそのサボっていることを親に知られ、しこたまぶん殴られてスクール通いは終了した。小学六年のときだ。
 それから大人になっても泳ぐことはほとんどなかったのだが、今になって、時折趣味程度に泳ぐようになっている。
 だいたい一週間に一度、仕事終わりか、休日の午前中に泳ぎに行く。そんなに長い時間は泳がない。五十メートルを一分四十五秒スパンで、だいたい三、四十分ほど泳ぐ。あまり長距離に向いていないのを自覚しているので、短時間でがしがし泳ぐのだ。
 僕のほかに泳いでいるのは、だいたい老人だ。若い人は一使用料が四四〇円の市民プールではなく、きちんとジムに行き運動しているのだろう。だから、僕の年代は大抵僕ひとりだけだ。そのせいか、市民プールの雰囲気はなんだか牧歌的だ。水中ウォーキングを談笑しながらやっているおばあちゃん軍団と、恐ろしく緩慢なフォームで、しかし延々とクロールを泳ぎ続けているおじいちゃんに挟まれつつ、僕はさっと泳ぎさっと上がるのだ。
 不思議なもので、昔はあんなに嫌だった水泳が、今は楽しく心地よい。きっと自分のペースで泳げるからなのだが、そのほかにももうひとつ理由があるのを自覚している。
 運動した後のビール、これがまた格別なのだ。
 つまり僕は、旨いビールの仕上がりのために泳いでいるのである。

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