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27 雪国について

 

 転勤族なのだが、ここ数年は雪国を渡り歩いている。
 個人的に、雪国は大好きだ。乾燥肌なので、冬場がしっとりとしている雪国だと快適に過ごせるからだ。雪が降る地方は酒と肴が旨いことが多い。綺麗な雪解け水に恵まれているからだろう。何よりも雪で一変する風景には季節感がある。舞い落ちる雪片を眺めながら、炬燵にあたって日本酒で一杯やるのは、まさに最高のひとときだ。
 もちろん、雪国には雪国ならではの苦労もある。
 まず、寒さだ。雪が雨にならないくらいなのだから、雪国は大抵寒い。そのための防寒措置が不可欠だ。だが実のところ、僕は寒さだけでいえば関東と大して変わらないと感じている。理由は乾燥と風だ。空っ風は体感温度を三、四度は下げている。東北や日本海側の摂氏二度と、関東の摂氏六度が、だいたい同じくらいの寒さになる。
 だから、やはり雪国の苦労のほとんどは雪が降ることそのものにある。まず雪かきをしなければならない。やったことがなければ決してわからないことだが、雪はとても重い。雪質によって変わるが、なめてかかると大抵腰をやってしまうのだ。しかも雪は継続的に降る。一生懸命綺麗にしても、次の日の朝にはまた積もっている。虚無感に襲われつつ、放っておけばもっとひどいことになるのでまた雪かきをする。この苦労は並大抵ではない。
 また、雪は滑る。だからまずしなければならないのが、車のタイヤをスタッドレスに履きかえることだ。ノーマルで雪面を走るなど自殺行為に他ならない。もっとも、スタッドレスをはいても百パーセント安全ではないから、運転には細心の注意を払わなければならない。
 車を出ても、当然路面は滑るから、歩き方には気をつけなければならない。いかに運動神経がよくても、両足同時に持っていかれることもある。靴底は可能な限り滑り止めのついているものとして、手すりがあれば必ず掴む癖をつける。それくらい、雪は滑るのだ。
 と、生活するにはなかなか大変な土地柄であったとしても、冒頭のとおり、雪国にはそれでもおつりがくるくらいのよさがある。
 なので定年後、僕は雪国に住みたいと思っている。日本海側か、東北の、中規模都市だ。住みやすい土地に住みやすい家を買い、冬になれば雪とともに一杯やるのだ。
 そんな悠悠自適の生活をするために、僕は今文筆業で可能な限りお金を貯めようとしているのである。

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