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23 出世について

 

 やたらと出世にこだわる人がいる。
 往々にして、出世していない人が多い。現に出世していてなお出世にこだわる人もいるにはいるが、そういう人はあまりそのことを口にはしない。「いえいえ、私には今のポストでも分不相応なくらいで」と言いつつ、心の中で上昇志向をふつふつと沸かせている。だからこそ出世できるのだ。逆に、ことあるごとに出世云々を口にする人というのは、だいたい出世コースからは外れているのである。
 そういう人と話をすると、だいたい「人事」の話になる。
 会社の中は定期的に人が異動している。概ね四月、新入社員が入ってくる時期にあわせて、組織の組換えを行うところが多いと思われる。会社にもよると思うが、だいたい一割から四割くらいの人間の部署が変わり、地位が変わり、仕事が変わり、または会社を去っていくのだ。
 出世にこだわる出世できない人は、この人事の話が大好きだ。「同期の○○だけなんで課長になれるんだ、器でもないのに」「△△、アイツは今年も係長のまんまだったな」「◇◇さんはさすが、もう部長になった。きっと将来は幹部なんだろうな」
 正直、僕はそういう話にまったく興味がない。だから、こういう話を振られてしまうと大変だ。「○○さん、遂に支店長かあ、やっぱあの人についてきゃよかったなあ、周木くんはどう思う?」と意見を求められ、僕は、愛想笑いを浮かべて答える。「そうですねえ~、ついていったらよかったのかもですね~、はは」適当な応答だ。自分でもそう思いつつ、心の中でははやくこの話終わんねえかななどと毒づく。
 誤解なきように言うと、興味がないというのは、僕にとって人の出世はどうでもいいという意味であって、自分自身の出世に関しては大いに興味がある。賃金水準に関係するのだから当然だ。だが人の賃金水準はどうでもいい。誰がどんな地位でいくら稼いでいようが、僕の生活にはまったく関係がない。だから人の出世などどうでもいい。
 最近気づいたのだが、こういう出世が気になる人というのは、どうやらその出世した人が自分を引き上げてくれるという期待があるからこそ、気になっているものらしい。
 背景には、いわゆる派閥というものがある。自分が派閥に属するとき、派閥の頭が出世すれば、自分も引き上げて貰えるというわけだ。だから派閥にある人間の人事が気になるのである。
 まあ、そりゃそうだろとは思う。僕自身は社内で特定の派閥に属しているというわけではないからあまり気にもしないが、がちがちの派閥存在していないなどということもなく、現に今そこに属している人間からすれば、派閥の人事は確かに死活問題となる。
 僕は、派閥云々よりもまず自分の仕事ぶりが大事だと思っている。出世も大事だが、まずは今のポストで何ができる、どんな結果を残すかだ。そのほうが何よりも重要であり、派閥も出世もその後の問題に過ぎない。
 とはいえ、周りを見ると、派閥がらみで出世するケースはやはり多い。

 だから、もしかすると僕は、出世できないのかもしれない。
 もっとも、別にそれでいいと思っている。出世のために仕事をするのではなく、仕事のために仕事ができれば、とりあえず僕はそれでいいのだ。

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