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19 蕎麦について

 

 蕎麦殻の枕が好きだが、そもそも蕎麦が好きだ。
 世の中がうどん派とそば派に分かれているとすれば、僕は圧倒的そば派である。うどんが嫌いなわけではないが、選べる局面ならばまずそばを選んでいる。なんでそばなのかと言われてもわからないが、好きなものは好きなのだ。
 とはいえ、必ずしも手打ち、十割蕎麦が好きだ、というわけでもない。一番好きなのは、「これ何割小麦粉なんだろね」と思うような、立ち食いそばのそばだったりする。結局のところ、ああいう感じの風味と触感を持つものを、醤油のおつゆの中から啜って食うのが好きなのだろう。
 ところで僕は、大学時代に第二外国語としてロシア語を取っていた。
 ロシアに興味があったわけではない。単に第二外国語が必修で、中でもロシア語はもっとも単位が取りやすいという噂があったというだけのことだ。だが、ロシア語のお陰でキリル文字が理解できるようになった。おかげでソチオリンピックのときには一緒に見ている家族に大層自慢できた。もちろんロシア語そのものはほとんど忘れた。唯一覚えているのは「ズドラウストビーチェ」=「こんにちは」だ。「ズロース一丁」で記憶しろと先生が言ってくれたお陰で、ありがたいことに今も覚えている。
 なんでロシア語かというと、実はロシアではそばをよく食べるのだ。消費量は日本の十倍近くあるらしい。
 実際、そばをクレープ状にしたブリヌイや、粥にしたカーシャなど、ロシア料理にはそばは欠かせない。
 そば好きであることや、ロシア語を無意識に履修していたこと。僕はもしかしたらロシア人の生まれ変わりなのかもしれない、一瞬そんなふうに思ったが、もちろんそんなはずはない。なぜなら、僕はウォッカが嫌いだからだ。

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