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13 メフィスト賞について

 

 メフィスト賞に応募した理由は、まず賞のスパンが四か月と短いからだった。
 賞のスパンが短い、イコール応募してから結果が出るまでの期間も短い。よく考えれば必ずしもそうではないのだろうが、気が短く一日でも早く結果が知りたかった僕には、この賞はあっているような気がした。
 もう一つの理由は、今はもうやっていないけれども、どんな作にも必ず編集者の一行コメントが付されるということだった。
 物を書く人間ならば誰でもそう思うはずだが、人はこれを読んでどんな評価を下すだろうか、それが知りたかった。特に、お愛想しか言わない家族や友人ではなく、プロが見たらどう評価するのか。
 というわけで、僕はメフィスト賞に自分の書いたものをせっせと送ることになった。
 正直に言うと、実は、熱心な応募者になってから初めて、僕はメフィスト賞がどういう性質を持つ賞なのかを知った。
 僕が小説を書く直接のきっかけになったのは、京極夏彦さんの京極堂シリーズだが、驚くべきことに、そしてなんと不遜なことか、メフィスト賞創始のきっかけが京極さんだと知ったのは、メフィスト賞に応募した後のことだった。
 さすがに恥じて、メフィスト賞の過去の受賞者を探ると、森博嗣さんほか愛読していた作家の名前が並んでおり、そこで初めて「これはただならぬ賞なのだ」と知ったわけだ。
 とはいえ、メフィスト賞のようなフリーダムな賞は他にはなく、以後もせっせと小説を送り続け、気が付けば自分もその末席を汚すようになってしまった。だから、「尖っている」と評されるメフィスト賞受賞者の一員となってしまっているということに、そんな名作揃いの間で平々凡々とした拙作がちんまりと挟まってしまっているということに、いまだに僕は恥ずかしいような、肩身が狭いような、なんだか複雑な思いを禁じ得ないでいる。

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